練習方法を考案した経緯

2022年9月15日

社会人の娘が「歌が歌えるようになりたい」というので、私は週末ごとに娘に発声法と英語の歌の歌い方を教えていました。娘は平日は帰りが遅いので、土日しか発声練習は出来ませんでした。週2回の発声練習では、鼻腔への通り道を開けることは出来ませんので、鼻腔に共鳴させた発声は出来るようにはなりません。 歌は鼻腔への通り道が開かないと、きれいに声を共鳴させることはできませんし、声量も出ませんし、音程も安定しません。ですから鼻腔に共鳴させられないまま歌の練習をしても無駄なのです。

ただ娘は一生懸命、やっていましたので、それではかわいそうだと思い、「土日しか発声練習が出来なくても、鼻腔に共鳴させることは出来ないか」と、私は考えてみました。

私は「聞いた声と同じ声を出させるのは耳の働きだ」と思っています。ですから発声練習が出来なくても、「耳の力を使って鼻腔への通り道を開けさせることは出来るのではないか」と考えました。

そこで、私のDVDの発声練習2番ニアニアの発声練習の音声を録音して、娘の携帯電話に送り、「お母さんはいつも由紀子と発声練習をしている時に軟口蓋を上げて発声しています。お母さんのこの声がどうやって体から出てきているか考えながら一日一回聞いてちょうだい」と言いました。

それから一週間後の練習で、娘の鼻腔への通り道がわずかですが開いているのがわかりました。やはり、聞いた音と同じ音を出すように体を変えるのは耳の力だったと、この時、わかりました。

ただ娘は帰国して10年たったとはいえ、アメリカに4年いたので、彼女の例をそのまま日本の学習者に当てはめることは出来ない、と思いました。

その頃ちょうど、相田さんと沢さんに子音の日本語化を直す練習をやって頂いていました。そこで、相田さんに娘と同じ私のDVDにあるニアニアの発声練習の音声を送って「私の体からどうやってこの声が出てきているのか考えながら一日一回聞いてください」とお願いしました。

その2日後、相田さんから「違っているかも知れませんが、鼻腔に共鳴させるというのはこういう感じですか?」というメールとともに、相田さんのNの例文の音声が送られてきました。

わずかではありましたが鼻腔への通り道が開いていました。たった3日聞いて相田さんの鼻腔への通り道が開いたことに私は驚きました。(相田さんは、50代の女性です)やはり同じ音を出そうと体を変えるのは耳の働きだと確信しました。それと同時に、発音習得の全般について臨界期仮説が当てはまるわけではない、と思いました。少なくとも、英語の音質で話す鼻腔、口腔の形については、50代でも耳から聞き取って、変えられる、と思いました。

数日後、私はICレコーダーを持って相田さんのところに伺いました。けれども私がICレコーダーを持って前に座っていた間、相田さんは、その鼻腔に共鳴した音を再現できませんでした。非常に近い音は出るのですが、鼻腔への通り道は開いていませんでした。ご本人も、「違うなあ」と感じられて首をかしげていらっしゃいました。

ですから耳で聞いて同じ音を出そうとすると出来る時もあるけれど、それが「自分の体のどこをどうした時に出てくる声なのか」まだ自覚していない段階だったのだと思います。

ただこの時、送られてきた相田さんの音声は、次に沢さんが音質の練習をした時、非常に役に立ちました。沢さんが「自分と川合先生の声を比べても違いすぎてどうしたらいいのか全然分からない。そこに自分と川合先生の中間に位置する相田さんの発音を聞くとどうすればいいのかよくわかった」と言っていました。もちろんこの時の相田さんの録音はみなさんにも聞いていただきます。

(こういう練習方法を提示すると必ず「日本人は日本人の英語で良いのだ」という方がいらっしゃいますが、私が英語の勉強会でこういう英語を話すと特に若い方達が時々「どうやって発音を学んだのですか」と休憩時間に聞きにいらっしゃいました。「ネイティブのような音質で話したい」という希望を持っているのなら、それを教えてあげるのが親切だと思います。向上心に水を差す必要はないと思います。それにこういう発声で英語をしゃべるととても大きな声で英語が話せます。通じやすくなります。)