大学1、2年生の勉強の仕方
言いたいことが自然に英語で頭に浮かび口から出てくるようにする大量の英語インプット
授業では、大学生にふさわしい内容の本を読んだり、英語での話し合いなどが行われると思いますが、ここでは、言いたいことが自然に英語で頭に浮かんで口から出てくるようにするために大学生自身が行う英語学習について述べます。
この状態にするためには大量の英語のインプットが必要になります。大量のインプットは「聞く」ことでは達成されません。読むことによって達成できます。英語の本を読むとき、私たちは物言わずただ並んでいるだけの英単語を意味のある文に構築しながら読んでいます。ですから、大量の読書をすると、自分の言いたいことも頭の中で英文に構築されて口から出てくるようになると私は思っています。私自身がアメリカで一日5時間から7時間の英文読書を続けて一か月たった時、その状態を経験しました。
やり方
まず、「帰国子女に見る世界に通用する英語力の作り方」という本に書いてあるオリジナルセブンという英文読書プログラムを行ってください。アメリカ人の小学生が読むやさしい本から大人が読む本まで7冊が書いてあります。順番通りに読んでいくことによって、大人の英語の本が読めるようになります。7冊全部で1200ページあります。
オリジナルセブンを読み終わりましたら、夏休みや春休みのような長期休暇を使って、その内の一か月を英文読書に当ててください。これは 疑似留学体験 のようなものだと思ってください。留学すれば一日のほとんどの時間を英語で過ごします。それを日本で疑似的に行うものだと思ってください。
一か月間毎日5時間から7時間英語の本を読んでください。何を読んだらいいかは「英語発音、日本人でもここまでできます。」という本の巻末に難易度別に書いてありますから、それを参考にしてください。「5時間から7時間の英文読書」と驚かれるかもしれませんが、頭の中を変えていくためには起きている時間の半分くらいは英語を処理することに費やさないと頭の中が変わりません。少しきついかもしれませんが、疑似留学体験だと思って一か月間毎日5時間から7時間の英文読書を行ってください。毎日2時間くらい読書をして長く続ける方法もありますが、私も子育て中、そうやっていて、子供が病気になったり、家の都合で本が読めない日があったりすると、続けるのが難しくなりました。そういう方は多いと思います。こうして間があいてしまうとせっかく積み上げた英語の感覚がなくなり、また最初から積み上げなければならなくなります。もちろん、そこで読書を再び始めれば挫折にはならないし、少しずつ読む速度も増し、英書にも慣れますが、英語が口から出てくるようになるには、また時間がかかります。それを繰り返していたら、効果を感じることができずにやめてしまう方が出るのではないか、と思いました。そこで、短期間集中してその状態に持っていく方法を取りました。私自身がやってみて、一日5時間から7時間英書を読んで一か月たった時、もっとも頭の中の変化を感じました。最初の変化は言いたい文を表す動詞が頭の中でフレーザルバーブの形で出てくるようになりました。go through とか look up toなどという形で出てきました。これは私の生徒さんも同じでした。そのあと、読書を続けて文の形で言いたいことが出てくるようになりました。
英文読書の際に特に注意していただきたいのは以下の2点です。
- 読むときは、単語を飛ばして読まないでください。全部単語は読んでください。
- 辞書は、その単語がわからないと、本全体の話が分からなくなる、という場合は引いてください。英和辞典で結構です。たくさん読んで英和辞典を引くと頭が日本語に引き戻されるような感覚が出てきた時、英英辞典に変えてください。
なぜ単語を飛ばさないで読むか説明いたします。
単語を飛ばして読んでいたら、意味のある英文に構築せずに読んでいることになり、たとえ読書をしても、言いたいことが英語で頭に出てくる状態にはならないからです。英文読書を大量にした後、言いたいことが英語で頭に浮かんでくるのは、物言わず並んでいる単語を、意味のある英文に頭の中で構築しながら読んでいるから、自分の言いたいことも英文に構築されて出てくると私は思っています。ですから単語は全て目を通して読んでください。
オリジナルセブンを行う時はなるべく丁寧に読んでください。最初に丁寧に英文を読んでいると、後で楽に読めるようになります。最初にいい加減に読んでしまうと、だんだん読むのがきつくなってきます。最初は丁寧に読んでください。オリジナルセブンは英文読書に慣れるために行いますので、どれだけ時間がかかって読んでも結構です。速く読む必要はありません。むしろ、楽しんで読めることが重要です。皆さんが日本語で好きな本を読むときは速度は気にしませんね。それと同じで、時間がどんなにかかっても、かまいません。私は多読をしていたときも、速読という読み方よりはいつも精読に近い読み方をしていました。私の場合速読というのは、非常に難しい本を読んだ後、小中学生用の英書を飛ぶように読むことによって、やっていました。この時も単語は飛ばしませんでした。
以上が大学1,2年生で行う多読のやり方です。
ちょっときついですが、一か月留学したと思って、頭を英語漬けにしてください。一日中英語のラジオをつけっぱなしにして聞くより、読むほうがずっと大変です。私はアメリカにいた時、9月の新学期になってまた子供たちの宿題を手伝わなければならず、5時間も読書ができなくなった時、文学作品が収録されているテープをずっと聞いてみましたが、読んだときのような効果はありませんでした。それで、英語が口から自然に出てこない、と感じた時は、子供の宿題がない日曜日に3時間くらい英文読書をして、その感覚を取り戻していました。聞くことは一日中やっても、言いたいことが口から英語で出てくるようにはなりませんので、本を読むことで大量のインプットを行ってください。
「帰国子女に見る世界に通用する英語力の作り方」の本の139ページに次のように書きました。
「オリジナルセブン」終了後、自分の好きな本を読んでいけば、読むことに慣れて速度も自然に速くなっていきます。できれば、200ページくらいの英語の本を週に1冊読むことができるようになるまで続けてください。
読書記録を見ると、私は多読を始めて言いたいことが英語で頭に浮かんでくるようになった年、約10700ページの英書を読んでいました。これを52週間で割って、一週間に200ページくらいの本を1冊読むことができるようになるまで続けてください。と書きました。この場合想定していたのは、様々な年齢層の方でした。今回は就職活動前に多読の効果を身に着ける大学生の方々のためのやり方を書きました。
私はアメリカにいた時、子供の学校があるときは宿題を手伝うため自分の英文読書の時間はそんなに取れませんでした。私が5時間から7時間の読書ができたのは子供たちが夏休みになった6月下旬から8月の終わりまででした。その時、一日5時間から7時間読んで一か月たった時、最も頭の中の変化を感じました。それで、今回大学生の方々のためにこういう練習を書きました。学生の方々でしたら、一か月くらいなら、いろいろな用事に邪魔されずに本を読むことができるのではないか、と思いました。帰国子女の本に書いてある方法と違う練習方法を提示した理由はそういうことですので、ご了承ください。
英語教育に携わる方々の中には「一日5時間から7時間の英文読書」と聞いて驚く方もいらっしゃると思いますが、このくらいやってようやく「英語で考えること」の入り口に立てます。そのくらい自分の頭の中を変えていくのは大変なことです。だから、中学や高校で、週5時間英語で授業をやったところで英語で考えるようにはなりません。全く英語量が足りません。「英語で考える」というのは英語で「思考活動」をすることで、dogといわれて、「犬」と思わないで犬のイメージを思い浮かべることではありません。ある言語で思考しようと思ったら、洪水のように大量にその言語をインプットしなければなりません。週5時間の「英語で授業」をやって教室を出れば英語など全く聞くことはない。その程度の英語量で生徒たちが英語に慣れることもありませんし、英語で考えるようにもなりません。理解があいまいになるだけです。子供にしてみたら当然ですね。英語はこれから習う言語なのですから。留学した方や帰国子女の人達と日本で英語を学ぶ生徒達の英語のインプット量は全く違います。1%と100%くらい違います。ですから英語で考えるようにするためにはこのくらいのインプットが必要になります。
大学教育に関して
英語が使える学生を増やすため、文部科学省が大学教育を英語で行うことを奨励していました。これについて私の考えを述べます。
結論から申し上げますと大学では学問の習得と英語の習得は分けて考えるのが合理的です。以下にその理由を述べます。
子供達がアメリカに行ったばかりのころの勉強の仕方は次のようでした。
授業内容を理解し、宿題を考えることは全部日本語に訳してしました。そして、それを英語でどう表現するかを最初は勉強していきました。「理解すること」「考えること」は、日本語でする。つまり、学習は日本語(母国語)で行い、それを英語でどうあらわすかを最初は勉強して行きました。
息子がアメリカの高校にいた時、夏にサマーコースというのがありました。アメリカの夏休みは6月20日くらいから9月の初めまであります。その期間、午前中4時間毎日授業を受けて、一年授業を受けたのと同じ単位がもらえます。
であれば、大学生がその年に勉強した専門分野の内容を今度は2か月くらいのサマーコースで、英語でどう表現するかを訓練して行けばいいと思います。
サマーコースでは新しい内容は教えないで、習ったことをどう英語で表現するかを学ぶことに目標を絞って行います。つまりこれは学生たちの専門分野の英語集中コース、英語のトレーニングです。目的は専門分野の英語の習得です。
英語で、「自分が今年日本語で受講した専門分野の授業と同じ専門分野のレクチャー」を「聞き」、英語の本を「読み」英語で「話し合ったり」、英語でレポートを「書いたり」する。こうやってその分野で、日本語で学んだことを英語で理解、表現できるようにしていきます。
たぶん息子のサマーコースのように午前中だけでは足りないので、午前と午後、一日を使っていくようになると思います。また学生は、土曜日も予習、復習に追われるとは思います。学生は2か月くらい、専門分野の英語だけの環境で勉強します。
すべての学生が参加する必要はありません。英語で表現することが必要な学生に行えばよいものです。ですから一つの大学で実施するのに、教える人材の確保や費用の点で問題があれば、いくつかの大学が合同でおこなう、とか県や国の補助を得るとかすれば、出来ることだと思います。
大学は英語に慣れるために行くところではありません。学問をしに行くところです。学問と英語、この二つは分けて考えた方が、私たちの子供たちの能力を伸ばせると思います。
ただこの場合も中学生で、ほぼ完ぺきな発音を習得し、高校生で、語順の通り英語を処理する訓練をしていることが前提となります。
発音が通じなければサマーコースで何をやっても無駄です。語順の通り考えられなければ、講義を聞いても(リスニング)すぐに理解するのは難しく、本を読む(リーディング)スピードも上がりません。
中学、高校での英語学習をきちんとしていることが、前提となります。
また、現在では、大学はいろいろな学期の取り方をしているようですので、長期休暇が必ずしも、夏期にならない大学もあるようですので、その点は各大学が柔軟に対応されたらよいと思います。
ただ、日本語で、その講座が終わってすぐに、その科目の英語集中コースを行うというタイミングは変えられません。
私たちがニュージャージーから帰国した後、アメリカの高校生が受けるSAT(日本の統一テストのようなもの)の内容が変更になりましたので、私は今の制度についてはよく知りませんが、あのころはSATにはサブジェクトテストというのがありました。その名の通り、各科目ごとのテストです。
高校生の間では、サブジェクトテストは、その科目の授業が全部終了した時に、間をおかず受けるのがよいとされていました。終わってすぐなら、内容もよく覚えているからです。それと同じで、その講座の英語集中コースは学生たちがその講座の内容をよく覚えている間にするのが、最も効果があります。忘れた頃に英語でやっても、効果は期待できません。
大学で学問に使う英語を学生に習得させるためには日本人の先生に英語の研修をさせて英語で授業をさせても効果はありません。新聞で、「英語で授業を行う先生に英会話学校が英語の研修をするという記事」を読みました。
でも、日本人の先生が英語の研修を受けても、大学の授業を英語で行えるようにはなりません。仮に授業をおこなったとしても、そういう英語では大学生の英語コミュニケーション能力は上がりません。(ましてや発音は全然だめでしょう。)
はっきり申し上げて、これから英語や英会話を習うような人が、大学の授業を英語でやっても、まったく学生の英語力向上には役に立ちません。
学問の世界ではある現象を言うときに、研究者が決まって使う表現方法があるのです。決まって使われる単語や文があるのです。それは、専門用語というほどのことでは無くても、同じ研究をしている人々はそれを聞くと「ああ、あのことだ」とすぐにわかる表現の仕方があるのです。同じ現象でも、日本語から直訳したような英語では何のことを言っているのかわからないことがあります。研究者同士誰でも「ああ、あのことだ」と分かるような英語の使い方は、その学問を英語で学んできた人たちはみんな知っていて、当たり前に使っています。それも知らないで、先生が英語の研修を受けたところで、その学問を英語で講義できるようにはなりません。そして、そういう英語で講義を受けた学生は、ますます、その分野の英語が通じなくなります。
昨日まで使っていなかった言語で、大学の学問をするのは無理です。それは教師も生徒も同じです。特に大学の英語の講義はその分野を英語で学び研究してきた人でないと適切な英語での講義はできません。
サマーコースで専門分野の英語集中講座を行う場合、人材の確保が難しいとは思いますが、通年でなく夏期の8週間くらいでしたら、英語圏から来てくださるその分野の専門家の先生はいると思います。